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横浜地方裁判所 昭和44年(む)343号 決定 1969年10月15日

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨および理由は、準抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二、よって案ずるに、申立人の主張するところは、結局本件寸借詐欺と同種の一〇数件の余罪について、被疑者の引き当たり捜査をするため勾留場所を横浜刑務所から逮捕警察署である神奈川警察署留置場に変更する必要があるというに帰する。

然しながら、余罪捜査の必要を理由とする勾留場所の変更については、勾留の要件および効力は基本的には事件単位に考えるべきものであり、ただ、勾留中の被疑者につき当該勾留の理由と必要性の存続する限り、右勾留の機会を利用した余罪の取調も右の原則に反しない限度で、許されるものと解するのが相当であるところから、当該余罪が、勾留の基礎となった被疑事実と同種或は社会的に一連の事実であり、その余罪の捜査を遂げなければ、勾留の基礎となった被疑事実についての起訴、不起訴の処分を決し得ず、且つ、右余罪の存否について相当程度の疎明があり、右余罪の捜査につき、真に引き当たり捜査を要するなど、移監を必要とする特段の事由のあることが疎明されている場合にのみ許されるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、一件記録によれば、本件は、一万円の寸借詐欺であり、且つ、被疑者に同種の前科があることが認められるので本件が、果して余罪の捜査を尽さなければ起訴、不起訴の決定をし得ない場合であるか否かについては、若干疑問があるけれども、この点はさておき、申立人主張の余罪の存在につき、相当程度の疎明があるかどうかをみると、一件記録によれば、被疑者の供述としては、司法警察員に対する「このほかこの様な方法で悪いことを二〇件位重ねております……。」旨、および、検察官に対する弁解の際の「私はこの他に一四回位人を騙して金を取っています。」旨の各供述があるのみで、犯行の日時、場所、方法等についての具体的供述は全くなく、他に疎明資料としては、司法警察員作成の捜査報告書および川和警察署長より神奈川警察署長あての電話通信紙により昭和四四年七月中旬頃より同年一〇月初旬頃までの間に、神奈川県下に発生した本件と類似の寸借詐欺事件について、被害者の氏名、住所、被害にあった日時、被害額が記載されているが、犯行の方法、犯人の特徴等具体的事実関係は何ら明らかにされておらず右各被害が、被疑者の犯行によるものか否かについては、全く不明の状態であると言わざるを得ず、結局検察官主張の余罪についてはその疎明不十分と言うべきである。

そうするとその余の点について判断するまでもなく、検察官の本件移監の請求は理由がなく、右移監請求に同意しない旨の決定をした原裁判は正当であり、本件準抗告の申立は理由がないから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を適用して、これを棄却することとする。

よって主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 赤穂三郎 裁判官 吉田修 増山宏)

<以下省略>

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